SMSの冗長化は必要か
この記事の要点
配信会社を2社にしても、携帯電話会社の側の障害では、どちらの会社から送っても届きにくくなります 2社にするなら主と予備を決め、どちらの会社から送るかを設定で切り替える作りにします 予備の会社には、送らない月も最低料金や固定費がかかることがあります。1年分の費用で見積もります 2社にするかは、認証が止まったときに何が止まるかと、予備の費用・手間を比べて決めます
SMSの冗長化(予備の配信会社を用意して、2社から送れるようにすること)をするかどうかは、SMS認証が止まったときの損失と、予備を置く費用・手間を比べて決めます。2社にするなら、ふだん送る主の会社と予備の会社を決め、APIの返事と結果の通知(配信会社から返る、届いた/届かなかったの知らせ)を見て切り替える条件を先に決めておきます。2社にしない場合も、メールなど別の手段で認証できる道を残しておけば、配信会社が止まっている間も利用者はログインを続けられます。
目次
SMSの冗長化で備えられる障害と、備えられない障害
SMSは、自社のシステムから配信会社に送信を頼み、配信会社が携帯電話会社の網を通して利用者のスマホに届けます。途中のどこかが止まると、認証コードは届きません。配信会社を2社にして防げるのは、そのうち配信会社の側で起きる障害です。
| 止まる場所 | 配信会社を2社にすると |
|---|---|
| 配信会社のAPIやシステム | 予備の会社から送れる |
| 配信会社から携帯電話会社までの経路 | 予備の会社の経路が動いていれば送れる |
| 携帯電話会社の網 | どちらの会社から送っても、同じ網を通るので届きにくい |
| 自社のシステム | 防げない |
表は、SMSが届くまでの経路のうち、どこが止まると2社目で補えるかを整理したものです。携帯電話会社の網が止まると、送る配信会社を替えても、最後に通る網は同じです。その場合に備えられるのは、SMS以外の手段だけです。2社が同じ中継の事業者を通している場合は、その事業者の障害で2社とも届きにくくなります。
通信サービスの事故は、毎年報告されています。総務省の[令和8年版 情報通信白書(電気通信サービスの事故の発生状況)](https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r08/html/nd212290.html)によると、2024年度に電気通信事業者から四半期ごとに報告された事故は6,713あり、そのうち、電気通信事業法で「遅滞なく」報告することが義務づけられた重大な事故は6でした。SMSに限らない、電気通信サービス全体の数字です。
配信会社を2社にするときの5つの手順
2社にするときは、障害が起きてから予備の会社と契約するのでは間に合いません。新しい会社では、申し込み・審査・送信元番号の登録を経て、はじめて送れるようになるからです。次の順番で、ふだんのうちに準備します。
1. 主の会社と予備の会社を決める
ふだんの送信は主の会社から送り、予備の会社は止まったときだけ使います。2社に半分ずつ流す作りもありますが、2社分の結果を見比べることになります。主と予備を分けておけば、ふだん見る結果は主の会社の分だけで済みます。
確かめ方:開発と運用の担当者が、いまどちらが主の会社かを同じ答えで言えるかを見ます。
2. 予備の会社でも、申し込みと送信元番号の登録を済ませる
予備の会社でも、申し込みと審査、送信元番号の登録を終え、すぐ送れる状態にしておきます。送信元の表示が2社で違うと、利用者には知らない番号から認証コードが届くことになります。登録できる番号と、受け取る人の画面での表示を、2社で並べて確かめてください。
確かめ方:社内の携帯電話番号に2社から送り、送信元の表示を見比べます。
3. どちらの会社から送るかを、設定で切り替えられる作りにする
送信の処理を、設定を1か所変えればもう一方の会社のAPIを呼ぶ作りにします。SMS APIの乗り換え手順で書いた、一部の送信から新しい会社に移すための作りと同じものです。乗り換えのときに作ってあれば、そのまま予備への切り替えに使えます。結果の通知の受け取りや、届いたかどうかの判定も、2社分を用意します。
確かめ方:テストの環境で設定を切り替え、予備の会社から送ったSMSの結果の通知が、自社のシステムに届くかを見ます。
4. 切り替える条件を、APIの返事と結果の通知で決める
予備に切り替えるかどうかは、主の会社のAPIの返事と、結果の通知を見て判断します。たとえば次のような状態です。
- 送信のAPIがエラーを返し続けている
- 直近の送信のうち「届かなかった」の割合が、ふだんより明らかに高い
- 結果の通知が、ふだんかかる時間を過ぎても返ってこない
結果の通知は、ふだんでも遅れて返ることがあります。1通ごとに「通知が来ないから予備で送り直す」作りにすると、通知が遅れていただけの1通目と、送り直した2通目がどちらも届き、利用者の手元にコードが2つ並ぶことがあります。切り替えは1通ごとではなく、一定の時間の結果をまとめて見て、担当者が設定を変える形にしておけば、送り直しのせいで同じ人にコードが2つ届くことは防げます。
確かめ方:ふだんの「届かなかった」の割合と、通知が返るまでの時間を、1か月分記録しておきます。基準がないと、おかしいかどうかを判断できません。
5. 予備の会社からも、定期的に送って確かめる
一度も使っていない予備は、いざというときに動くとは限りません。APIに接続するIDやパスワードが変わっていたり、自社のサーバーを入れ替えたのに、接続元のIPアドレスの登録が古いままだったりします。月に一度は、予備の会社から社内の番号に送って確かめます。
確かめ方:確かめた日と、結果の通知が届いたかを記録に残します。
予備の配信会社にかかる費用
予備の会社は、送る通数が少なくても費用がかかります。見積もるときは、月ではなく1年分で並べると、2社にする負担が分かりやすくなります。
| 費用の種類 | 中身 | 見積もりのときに確かめること |
|---|---|---|
| 初期費用 | 申し込みやAPI連携のときにかかる費用 | API連携にも費用がかかるか |
| 月額の固定費・最低料金 | 送らない月もかかる費用 | 配信がない月にいくらかかるか |
| 送信元番号の費用 | 番号の登録や表示のオプション | 2社で同じ表示にするための費用 |
| 開発と運用の手間 | 2社分の送信・結果の通知の作りと、定期的な確かめ | 自社の工数として見込む |
料金の比べ方はSMS認証の料金とAPIの比べ方にまとめています。表の下の2つは見落としやすい費用です。送信元番号の費用はオプションの欄に分かれていることがあり、開発と運用の手間は配信会社の料金表には出てきません。予備の会社の月額だけを見て決めると、ここが抜けます。
2社にしないときの備え:SMS以外の手段を残しておく
配信会社を2社にしない場合でも、SMSが止まったときに利用者が何もできない状態は避けられます。手軽なのは、認証コードをメールでも受け取れる道を残しておくことです。この手段なら、携帯電話会社のSMSが止まっていても、Wi-Fiなど別の回線からメールを受け取れる利用者はログインを続けられます。
- メールでの認証:SMSが届かないときに、登録したメールアドレスにコードを送る
- 認証アプリ:利用者のスマホのアプリでコードを表示する方式を、選べるようにしておく
- 障害のお知らせ:SMSが届きにくい間は、ログインの画面やサポートのページで知らせる
どの手段を使うかは、SMSで何を確認しているかで決めます。電話番号を持っていること自体を確かめたい場面では、メールに替えると、その確認ができなくなります。新規登録とログインで、使ってよい手段を分けて決めておいてください。届かないときの原因の切り分けは、SMS認証が届かないときに確かめることに書いています。
2社にするかどうかの決め方
2社にするかどうかは、次の3つの問いで考えます。
1. SMS認証が止まったら、何が止まるか:新規登録だけか、毎回のログインや決済の確認まで止まるか
2. SMS以外の手段で、止まった時間をしのげるか:メールなどで認証できる利用者が、どれくらいいるか
3. 予備の費用と手間を、誰が持つか:1年分の費用と、定期的に確かめる担当者を用意できるか
1で毎回のログインや決済まで止まり、2でしのげる利用者が少ないなら、2社にする理由があります。さらに3の1年分の費用と、確かめる担当者を用意できるなら、2社目を置きます。新規登録だけが止まり、メールでしのげるなら、別の手段を整えるほうが先です。
私の考え:まず別の手段、2社目はそのあと
私は、SMS認証を使う中小のSaaSやアプリなら、まずメールなどSMS以外の手段を整え、そのうえで認証が止まると困る場面が多いときに2社目を置くべきだと考えています。2社目で防げるのは配信会社の側の障害だけで、携帯電話会社の網の障害には効きません。別の手段なら、どちらの障害のときも、メールを受け取れる利用者はログインを続けられます。
もう1つ、予備は動くことを確かめ続けないと、いざというときに使えないことがあります。月に一度、予備から送って確かめる担当者がいないなら、2社目の契約だけを先にしても、備えにはならないと見ています。
ULTIQUE SMSを予備に置く場合の費用
ULTIQUE SMSの場合、初期費用と月額固定費は0円です。配信がない月も、最低利用料金1,000円(100通分込み・税抜)はかかります。標準の送信元番号の設定で月100通までなら、料金はこの1,000円のままで、手順5で月に一度送るテストのSMSもこの中に収まる計算です。
標準の設定では、受け取る人の携帯電話がSoftBankの場合、送信元は「253000」または「253001」と表示されます。すべての携帯電話会社で指定の番号を表示したい場合は、有料のオプションがあり、その分が加わります。申し込みのときには審査があり、用途もお聞きします。
SMSの冗長化のQ&A
SMSの冗長化は、中小のSaaSにも必要ですか?
すべてのサービスに必要とは限りません。SMS認証が止まったときに何が止まるかで決まります。毎回のログインや決済の確認までSMSに頼っていて、メールなどでしのげる利用者が少ないなら、予備の配信会社を置く理由があります。新規登録だけが止まるなら、先にSMS以外の手段を整えるほうが、少ない費用で備えられます。
配信会社を2社にすれば、携帯電話会社の障害にも備えられますか?
携帯電話会社の網そのものの障害には、備えられません。どの配信会社から送っても、最後は同じ携帯電話会社の網を通って利用者に届きます。配信会社を2社にして防げるのは、配信会社のシステムの障害と、2社で別々に通している経路の障害です。携帯電話会社の網の障害には、メールなどSMS以外の手段で備えます。
予備の配信会社に切り替える条件は、どう決めればいいですか?
主の配信会社のAPIの返事と、結果の通知をもとに決めます。送信のAPIがエラーを返し続けている、「届かなかった」の割合がふだんより明らかに高い、結果の通知がふだんの時間を過ぎても返らない、といった状態です。ふだんの割合と時間を1か月分記録しておくと、おかしいかどうかを判断できます。
予備の配信会社には、送らない月も費用がかかりますか?
かかる配信会社があります。予備の会社を選ぶときは、配信がない月にいくらかかるかを聞き、1年分で見積もります。送信元番号の費用と、2社分の開発・運用の手間も、別に見込んでおきます。
SMS認証が止まったとき、SMSの代わりに何で認証できますか?
登録したメールアドレスに認証コードを送る方法と、スマホの認証アプリでコードを表示する方法があります。電話番号を持っていることを確かめたい場面では、メールに替えると、その確認ができなくなります。新規登録とログインで、使ってよい手段を分けて決めておきます。
ULTIQUE SMSを主・予備のどちらかで使う場合
ULTIQUE SMSは、国内網(国内回線)で配信します。予備を選ぶときは、いまの配信会社がどの回線を使っているかを確かめ、2社の回線が同じかどうかを見ておきます。回線の違いはSMSの国内直収接続・国内網・海外網の違いにまとめています。
送信ごとの「届いた/届かなかった」は、指定したURLへ結果の通知(コールバック)で返ります。通常は配信後数秒〜数分で、携帯電話会社の状況によって遅れることがあります。手順4の切り替えの条件のうち、「届かなかった」の割合と通知が返るまでの時間は、この通知をもとに見られます。
セキュリティのため、接続元のIPアドレスを登録していただいています。主と予備のどちらで使う場合も、申し込みのときに送信するサーバーのIPアドレスを伝えておきます。サーバーを入れ替えるときは、登録しているIPアドレスも変える必要があります。どちらの会社から送るかは、自社のシステムの設定で切り替えます。
次に確かめること
- SMS認証が止まったときに、新規登録・ログイン・決済のどれが止まるか
- メールなど、SMS以外で認証コードを受け取れる道があるか
- ふだんの「届かなかった」の割合と、結果の通知が返るまでの時間を記録しているか
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